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そもそもの問題として…何で「風俗営業」は規制されなければならないの?
突然ですが、ここで質問です……この状況、あなたはどう感じますか?
ある日、小学校の隣にキャバクラができた。
「指名料○○円」と書かれたネオンの灯りが、静かな住宅街の中でひと際目立っている…
ランドセルを背負った児童たちは、華やかな女性たちが出入りするその店に対し、「あそこは一体何のお店なの?指名料って何なの?」と興味津々である…
多くの方は、「まあ、こういう業種があることは分かっている。だけどさすがに小学校の隣ってのは、ちょっとまずいよね…。別の場所でやったほうがいいんじゃないの?」と感じるのではないでしょうか。
この「ちょっとまずいよね…」という素朴な国民感情を、きちんとしたルールという形でまとめ上げ、お堅い文章にしたものが、実は「風営法」という法律なのです。
ところで「風営法」というのは正式な名称ではありません。正式には「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」という長い名称の法律で、これを略して「風営法」とか「風適法」と言っているわけです。
この「風俗」という言葉は、マスコミが「フーゾク」として、いわゆる性風俗産業を取り上げたことなども影響し、「イコール性風俗」のこととして捉えられるようになってしまったのですが、実は風営法でいうところの「風俗営業」は、世間一般のイメージとはちょっとずれていて、もっと身近なものなのです。
例えばゲームセンターに行ったことがある、という方は多いと思います。メダルゲームをしたり、UFOキャッチャーをしたりという、あのゲームセンターです。これは風営法上、立派な風俗営業(第5号営業)となっていて、「風俗」と聞くと眉をひそめる人も、実は風俗営業のお店に、しかも親子で行ったことがある、という場合も多いのです。
この他に、マージャン店、パチンコ店も法律上の「風俗営業」です。そして接待で使われる事も多い、銀座の高級クラブのようなお店や、キャバクラ、ホストクラブなども「風俗営業」です。少し前まではダンス、さらにその前は玉突場(ビリヤード)も風俗営業でした。
一方、世間で風俗の代名詞ともなっている性風俗産業ですが、これは風営法上の「風俗営業」ではなく、実は「性風俗関連特殊営業」という全く別のカテゴリーに入っているものなのです。したがって風営法上の「風俗営業」ではなく、規制のありようも全く異なったものとなっています。
また、ディスコのような業態で深夜も営業しているものは「特定遊興飲食店営業」といって、これも性風俗関連特殊営業と同じく、風営法上の「風俗営業」ではないのです。
バーなど、深夜にお酒を出すお店は、一見するとキャバクラなどと同じ「風俗営業」に入りそうなのですが、単にお酒を出すだけでキャストさんの接待がないものは「深夜における酒類提供飲食店営業」といって、これも違います。
すべてまとめて「風営法」の中に入っているので混乱してしまうのですが、このあたりの区別の仕方、分類は「私って風営法に関係ある?」に詳しい説明がありますのでご覧下さい。また、「トップページ」や、「やさしく読んでざっくり理解!風俗営業許可「超」入門!」には、この点について解説した動画もあります。
このように考えると、風営法でいうところの「風俗営業」というのは、時折テレビにも出てくる銀座の高級クラブのようなお店、街中にあるマージャン店やパチンコ店、ゲームセンターなど、意外と身近なものであることがお分かりいただけるかと思います。
そしてこの意外と身近な「風俗営業」を中心として、それに関連するいくつかの業態、例えば上で挙げた特定遊興飲食店営業などをひっくるめて規制している法律が…「風営法」なのです。
ところで風営法はかつて「風俗営業取締法」という名称でした。しかしこれが法改正によって「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」というように、名称が変わったのです。「取締」の代わりに「適正化」という用語が使われるようになりました。
「取締」から「適正化」へと用語が変わっただけのように思う方もいるかもしれませんが、実はここに、「風俗営業については、ルールさえ守れば、我々の生活に癒しや潤いを与える存在でもあるので、日常業務の適正化を通じて業の健全化と育成を図っていこう」という、新しい風営法の趣旨を読み取ることができるのです。
ちなみに未だ「取締法」という文字がついている法律は、例えば「大麻取締法」、「覚せい剤取締法」、「銃砲刀剣類所持等取締法」…などがあります。さすがにこれらから「取締」の文字を外して健全化を図っていくことは、現代においてもちょっと無理だ…ということは、お分かりいただけるかと思います。でもゲームセンターや銀座のクラブだったら…素朴な国民感情として、「まあ、いいんじゃない?」となるのではないでしょうか。
しかし、そうはいっても犯罪の温床になりやすい業態であることもまた事実です。
例えば、照度の低いクラブでは卑猥な行為が行われる可能性もゼロではありませんし、ゲームセンターの機械のように得点が出るものは、使いようによっては賭博にも利用できます。営業時間帯が主に夜間という、人間の理性が最も緩みやすい時とも重なっていますので、その可能性は更に高まるでしょう。
また、仮にルールをきちんと守って営業していたとしても、その特性上、カラオケの音が多少なりとも漏れてしまったり、酔客が出入りしたり、といったことはどうしても避けられません。
そのようなお店が病院の近くにあると、静かな環境で治療に専念すべき入院患者に影響を及ぼすこともありますし、学校の近くにあると、通学路を酔客が通ったり、といった不都合も生じます。そこで風俗営業などの店舗と、病院や学校などといった施設とは、ある程度の距離を保つことも必要になってきます。
つまり冒頭で述べた「ちょっとまずいよね…やるとするなら別の場所でやったほうがいいんじゃない?」ということになるわけです。
そのため風俗営業のような業種は完全にフリー、というわけにはいかずに、様々な部分で規制がかかっているのです。具体的には店舗の場所をはじめ、営業時間、照度、騒音、店舗の構造や設備などについて、事細かに基準が定められています(この点についてもう少し突っ込んでみたい、という方は、「私は風営の許可が取れるの?」や「風俗営業の規制と風営法|この規制…そもそも認められるものなの?」をご覧ください。
このように、「風俗営業については<適正に>営まれている限り、取締りの対象になるものではなく、健全な業として育成していくべきものである…しかし、そのためにはルールを作って規制することもまた必要だね」ということで、今の風営法が生まれたのです。
したがって、「風営法とは?」という問いに対して、答えを一言で言うならば、「風俗営業への愛であり、ムチである」ということができるでしょう。
営業者の皆さんにとっては、風営法をきちんと守ってさえいれば、風営法の「愛」の下に堂々と営業をすることができる、大変ありがたい存在となるわけです。
許可などの手続きをきちんと取り、決められたことをしっかりと守って営業している限り、何ら問題はありません。
しかし、ひとたび、その「愛」に逆らうような違反をすると…とんでもない「ムチ」が容赦なく飛んでくることになります。しかもそのムチは相当に痛いです(笑)。ですので、風営法には十分に注意することが必要となるのです(ちなみにこの「ムチ」がどんな感じで飛んでくるのかについては、「これはNG!風営法違反」や「警察から風営法違反を指摘された場合の対処法」をお読みいただければ、概略がつかめます)。
※「風営法」と「風適法」は、表現の仕方が微妙に異なり、この点については、こだわると奥が深いです。しかしここでは「ざっくりと理解する」ことが目的ですので、詳細な説明は省略とし、一般的によく使われている「風営法」という表現を使用しています。
また、その他の箇所についても、同様の趣旨から、ざっくりとした表現や内容となっております。予めご了承下さい。
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【執筆者】富岡 勉(とみおか つとむ)
1974年東京生まれ。
■慶應義塾大学を卒業した後、大学院で行政法(行政裁量)を研究。2001年行政書士試験合格。
■現在、東京都行政書士会所属行政書士、富岡行政法務事務所所長。専門は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律と、同法をめぐる裁量問題。理論と実務の両方に詳しい。
■行政書士・富岡勉からのメッセージ
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